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復刻 死者の夢 ~理想は受け継がれる~
1886年、澁澤栄一、伊藤博文、大隈重信など、時の指導者179人によって設立されたのが、女子教育奨励会のはじまり。創設者一人ひとりの志と夢を追い、一緒に時の扉を開いてみませんか。21世紀版・女子教育奨励会の源流を辿る。
澁澤雅英
MRA代表。澁澤資料館長.....[詳しいプロフィール] 

死者の夢

澁澤雅英

明治20年1月12日午後7時、内閣総理大臣官邸で「女子教育奨励会」の設立発起人会が開かれ「女子の教育の振興し、将来吾邦(わがくに)の男女をして人生当然享有すべきの福利を完受せしめ、兼ねて社会の秩序国家の進歩に裨益(ひえき)あらん事」を願って、初代首相伊藤博文を委員長として22名の創立委員が選ばれた。

その後、会の発足とともに初代会長に推された北白川宮能久(よしひさ)親王は、幕末期には輪王寺宮法親王(りんのうじのみやほっしんのう)として上野寛永寺の門跡(もんぜき)を勤めたが、維新後還俗(げんぞく)して軍人となり、近衛師団長として台湾に出征中、明治28年に病没したという多彩な経歴の人である。今でもその銅像が国立近代博物館の前に建っている。

この年11月には会の本拠として宮内省から永田町2丁目にあるご用邸、いわゆる「雲州屋敷」を借用する事となり、発起人伯爵伊藤博文の名で宮内大臣(くないだいじん)土方久元に宛てて「拝借願い」が出されている。因みにこの家は江戸時代には松江藩松平家の屋敷で、歌舞伎で有名な「天保六花撰(てんぽうろっかせん)」のなかで、河内山宗俊が、輪王寺宮の使僧に扮して乗り込み、上州屋の娘お藤を救い出そうとする一幕の舞台とされた屋敷である。

翌明治21年、奨励会は6名の英国人女性教員を招いて「東京女学館」を開校するが、発起人達の意図は教育だけが目的ではなく、一般の女性に「西洋の婦人と同格につき合う」機会を与え、物心両面で西洋流の生活に習熟させるための、クラブないしは社会教育センターの運営を考えていたようである。女学館の定款には、学校の施設は女性の「クラブ及び集会場として用いうるものとし、且つ一切の戸外遊技に適当なる庭園を設くべし」と書かれている。

こうした企画への社会一般の賛同を求め、またそのための経費を賄うため、創立委員は早速会員の募集を開始し、当面179名の応募を得た。会費は一口250円で、入会すればクラブの施設および庭園の使用、各種会合への参加、さらには親族中の女子を女学館に優先的に入学させる資格を持つものとされた。

雲州屋敷
雲州屋敷

しかし当時のお金で250円は今の貨幣価値では数百万円にも上る高額である。三菱財閥の総帥岩崎久弥が20口、渋沢栄一、原六郎が各12口など大口を引き受けた会員がある一方で、半株という人もあり、全会員の平均はおよそ一株半となった。

株敷勘定元帳
株敷勘定元帳

応募者は徳川家を始めとする旧大名家、閣僚を含む高級官僚、軍人、企業家、外国人など天下の名士を網羅していたが、さすがにこれだけの額を一時金で払うことのできる人は少なく、多くが5年という期限を設けて年4回20回払い、年2回10回払いなどの分割払いを選択している。東京女学館の資料室には「株敷勘定元帳」と題する大きな帳面があるが、会長の北白川宮はじめ有栖川宮、閑院宮(かんいんのみや)などの皇族から大山巌、勝海舟、伊藤博文、陸奥宗光、グラバー(長崎在住の英国人)等多彩な経歴を持つ人々が、毎月10円、20円と積み立てている姿は新鮮で、感動的ですらある。

名簿は全く順不同で、入会金の額や皇族、官僚、民間人、外人等それぞれの出自とは関係なく全く同列に並んでいる。明治20年といえば西南戦争から数えてわずか8年、明治維新の出発点となった戊辰戦争すら僅か21年前のことに過ぎない。ついこの間まで国を分断し、武器を取って互いに争っていた人々が、女性の国際化、社会参画を願い、身銭を切ってその名を連ねている。

株敷勘定元帳
株敷勘定元帳

明治という時代は、少なくともその前半に限って言えば、現在の日本とは比べものにならないほど大らかで、自由な心を持っていたに違いない。こうした闊達な精神がその後も持続し、この人達の願いが実現して、女性が国の意志決定に積極的に参画できる体制がもし生まれていたとすれば、近代日本の歴史は大きく変わっていたに違いない。

残念ながらその後の日本は度重なる戦争、敗戦、高度成長などの激動のなかで男性主導の体制が継続し、女性は男性の補助者としての役割を押しつけられ、この人達の夢は実現しなかった。ところがここ10年余り、バブル経済の崩壊に伴って男性による社会システムが破綻し、政治も経済も異様な閉塞状況に陥ることとなった。この国の再生・復活のためには女性の積極的な参画を求める以外にないという確信のもとに「女子教育奨励会」を再興し、故人の夢を、現代という文脈の中で、今度こそ実現したいと願っている。

2002年4月

女子教育奨励会員名簿(1888年設立時)
( )爵位
1. (侯)蜂須賀 茂韶 徳島藩主 文相 91. 村岡 範爲馳 理学博士
2. 冨田 鐵之助 実業家 日銀総裁 92. (伯)黒田 清隆 首相 農商相
3. 子安 峻 新聞記者 93. 小牧 昌業 宮中顧問官
4. 北岡 文平
94. デキソン  帝大英語教授
5. 與倉 守人 日銀理事 95. ショウ 聖公会司祭
6. 森村 市太郎 実業家 96. ビッカーステス 聖公会司教
7. 三宮 義胤 官吏 97. (伯)伊藤 博文 首相
8. 澁澤 榮一 実業家 98. (伯)吉井 友實 枢密顧問官
9. 大谷 嘉兵衛 実業家 製茶貿易 99. (子)中牟田 倉之助 海軍中将
10. 古川 市兵衛 実業家 足尾鉱山 100. ロイド 英語教師(東大等)
11. 守田 治兵衛 実業家 売薬業者 101. (伯)山縣 有朋 元帥 陸軍大将 首相
12. 佐羽 吉右衛門 実業家 桐生の豪商 102. ガードナー  建築家
13. 原 六郎 実業家 第一国立銀行頭取 103. 増嶋 六一郎 弁護士 中央大創立者
14. 浅野 總一郎 実業家 浅野セメント社長 104. 増嶋 イサ
15. 岩崎 久彌 実業家 三菱合資会社社長 105. 川崎 八右ヱ門 実業家 川崎銀行頭取
16. 岩崎 彌之助 実業家 日本郵船会社創立者 106. 川崎 東作
17. 川田 小一郎 実業家 日銀総裁 107. 小林 彌兵衛
18. 荘田 平五郎 実業家 三菱 108. 大村 和吉郎 衆議院議員
19. 肥田 昭作 実業家 三菱 109. 冨田 恒一
20. 二橋 元長 実業家 三菱 110. 谷 敬三
21. 萩 友五郎 実業家 三菱 111. 大川 平三郎 実業家 日本の製紙王
22. 寺西 成器 実業家 三菱 112. 久原 庄三郎 実業家 藤田組
23. 瓜生 震 実業家 三菱 113. 三越 得右ヱ門 実業家 三井
24. 山脇 正勝 実業家 三菱 114. 岩崎 重次郎 黄綬褒章者
25. 加藤 高明 外相 115. 池田 榮亮
26. 豊川 良平 実業家 三菱 116. 樋口 登久次郎
27. 長谷川 芳之助 鉱業家 117. 原 善三郎 貿易商
28. 吉永 治道 実業家 三菱 118. 髙田 小次郎 第百銀行創設者
29. ガラバー 貿易商 119. 矢嶋 作郎
30. 柿沼 谷蔵 実業家 三重紡績 120. 大倉 喜八郎 実業家 大倉組創立者
31. 三野村 利助 実業家 三井・日銀理事 121. 箕田 長次郎 博覧会事務局評議員
32. 森 時之助 黄綬褒章者 122. 田中 平八   実業家
33. (子)土方 久元 宮内大臣 123. 西園寺 公成 銀行家
34. 岩佐 純 福井藩士 124. 茂木 惣兵衛 実業家 茂木銀行
35. (公)三条 實美 内大臣 125. 諫早 酉三郎
36. (伯)佐々木 高行 参議・工部卿 126. 小松宮
37. (子)山尾 庸三 法制局長官 127. 有栖川宮   参謀総長
38. (伯)柳原 前光 外交官 128. 伏見宮  元帥 陸軍大将
39. (伯)東久世 通禧 七卿の一人 129. 閑院宮 参謀総長
40. 花房 義質 外交官 130. 北白川宮  近衛師団長
41. 大鳥 圭介 公使・華族女学校長 131. (伯)井上 馨 外相
42. 芳川 顕正 内相・逓相 132. (伯)大木 喬任 法相
43. 渡邊 洪基 東大総長 133. (子)五辻 安仲 宮内省御用掛
44. 池田 謙斎 宮内省侍医局長 134. (公)一條 實輝 明治神宮宮司
45. 高木 兼寛 海軍軍医総監 135. 西岡 逾明
46. 福島 敬典 海軍少将 136. 重野 安繹 史学会会長
47. 谷森 真男 貴族院議員 137. 森 有禮   文相
48. 井上 廉
138. 須田 哲造  眼科医
49. 中野 健明 神奈川県知事 139. 阪谷 芳郎 蔵相
50. 穂積 陳重 帝国学士院長 140. 三好 退蔵 司法官 貴族院議員
51. 岡内 重峻 貴族院議員 141. 西 成度 大審院院長
52. (子)清岡 公張 枢密顧問官 142. 南部 甕男 大審院院長
53. (伯)山田 顯義 陸軍中将 143. 中村 元嘉
54. (伯)松方 正義 蔵相・首相 144. 名村 泰蔵 司法官
55. (子)福岡 孝悌 五箇条御誓文起案者 145. 伊澤 修二 東京音楽学校長
56. (子)杉孫 七郎 枢密顧問官 146. (公)毛利 元徳 第十五国立銀行取締役
57. (子)田中 光顯 警視総監 147. 三井 高喜
58. (子)香川 敬三 皇后宮大夫 148. 西村 乕四郎 実業家 三井銀行
59. 郷 純造 貴族院議員 149. 三井 元之助
60. 井上 毅 文相 150. 三井 源右ヱ門
61. 辻 新次 文部次官 151. 三井 八郎次郎 実業家 三井物産
62. 堤 正誼 宮中顧問官 152. 三井 三郎助 実業家 三井鉱山
63. 金井 之恭 貴族院議員 153. 三井 高保 実業家 三井銀行
64. 巌谷 修 貴族院議員 154. 三井 八郎右ヱ門 三井家15代
65. 山口 正定 宮中顧問官 155. 今井 友五郎
66. 外山 正一 帝大総長 156. 石川 良平
67. 菊池 大麓 数学者・東大・京大総長 157. 鳥海 清左ヱ門
68. 高嶺 秀夫 東京美術学校・東京音楽学校長 158. 梅浦 精一 実業家 石川島造船所社長
69. 神田 乃武 英学者 外国語学校長 159. 安田 善次郎 実業家 安田銀行創立者
70. (男)神山 郡廉 元老院議官 160. 森岡 昌純 日本郵船会社社長
71. 鳩山 和夫 法学博士 弁護士 161. 吉川 泰次郎 実業家 日本郵船
72. 矢田部 良吉 植物学者 東京高等師範学校長 162. 内田 耕作 実業家 三菱
73. 永井 久一郎 実業家 163. 淺田 正文  実業家 日本郵船
74. 櫻井 錠二 化学者 学士院長 164. 近藤 廉平 実業家 日本郵船
75. (伯)西郷 從道 元帥 海軍大将 165. 加藤 正義 実業家 湘南汽船会社社長
76. (子)榎本 武揚 逓相・農商相・文相・外相 166. (侯)松平 茂昭 福井藩主
77. (子)佐野 常民 初代日本赤十字社長 167. (伯)勝 安芳 枢密顧問官
78. 肥田 濱五郎 海軍軍人 168. 伊達 宗城 修史局副総裁
79. (伯)大隈 重信 首相 169. (公)徳川 家達 日本赤十字社社長 徳川16代
80. (伯)大山 嚴 元帥 陸軍大将 170. (侯)徳川 茂承 紀州藩主
81. (侯)鍋島 直大 式部長官 公使 171. (侯)徳川 達孝 貴族院議員
82. (侯)徳大寺 實則 侍従長 172. (伯)徳川 達道
83. (伯)川村 純義 海軍大将 173. 河野 敏鎌 農商相・文相・内相
84. (子)大給 恒 賞勲局総裁 174. 秋田 彌左ヱ門
85. (男)長岡 護美 貴族院議員 175. 陸奥 宗光 外相
86. (男)髙崎 正風 歌人 宮中顧問官 176. 前田 朗子
87. (公)九條 道孝 貴族院議員 177. (子)髙島 鞆之助 拓相・陸相
88. (公)岩倉 具定 宮内大臣 178. (子)田中 不二麿 法相・枢密顧問官
89. 櫻井 能鑑  内大臣秘書官 179. コンデル 建築家
90. ノット 帝大理学部教授


 

 
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