佐藤 禮子(さとう れいこ)

止めよう! ダイオキシン汚染・東日本ネット代表、カネミ油症被害者支援センター(YSC)共同代表

佐藤 禮子
  • 1938年生まれ 東京目白に生まれ育ち暮らす。
  • お茶の水女子大学付属幼稚園から高校までの在学中に男女性別役割分業に疑問を持つ。
  • 慶応義塾大学大学院社会学研究科教育学専攻 博士課程単位取得。
  • 結婚、双子を含む二女二男の出産のため、生涯パート労働者となる。
  • 前東京都婦人情報センタ―初代専門員。東京YWCA学院、東洋英和短期大学、東京女子短期大学、千葉県立衛生短期大等 社会学非常講師を務める。
  • 地元清掃工場建設反対運動に関わり、ジェンダーの男女平等(イコール)は当然だが、染色体XY(雄)とXX(雌)はセイムではないと、有害化学物質から母性、次世代を守る等、エコロジーに関心が移る。
  • 止めよう! ダイオキシン汚染・東日本ネット代表、カネミ油症被害者支援センター(YSC)共同代表。日本婦人問題懇話会、東京YWCA、ガール・スカウト日本連盟、豊島区男女平等推進センター等の女性たちとの交わりは今も続く。
  • 2013年「夫のボケは神様からの贈り物」(近代文芸社)出版。
  • 2015年 結婚57年 認知症の夫を5年介護 死別。
  • 2018年 男脳・女脳の違いを尊重した人工知能が、人類の「いのち」の持続と幸せに貢献することを願い「夫のボケは神様からの贈り物」を出版。

夫のボケは神様からの贈り物

夫は2年半前、5年間の要介護の生活でしたが、80歳の誕生日の次の日、自宅で老衰で見事(?)に昇天しました。57年間の結婚生活、二人の娘と二人の息子の父親として、社会的にやりたいことを精一杯ギリギリまで夢中(?)でやる事が出来、最後は心ある周囲の方たちに見守られ、幸せな人生だったと思います。少し前の記憶を留める脳の記憶障害の世界の日々は、夫婦にとっては初体験。戸惑い、修行の連続でしたが、想定外の原発事故を起こす男性の脳に「いのち」は任せられないとの強い思いから近代文芸社から出版した本と同じ題名の「夫のボケは神様からの贈り物」を、私は80歳の誕生日に再び出版しました(あさ出版)。

認知症とは、腦とは、心とは、雄と雌の脳とホルモンの違いは、等々を考え、人工知能は天使か悪魔などゴチャゴチャ感じるままに書いたら気持ちが整理されました。その結果、夫婦の最後は動物愛を基にした日々であり、多くの暮らし方・感じ方を学び、新たな幸せ・生きがいを感じる事が出来るまでになったのは、「神様からの贈り物」が私自身にも届いたのだと感謝するまでになりました。

最近は「高齢社会の幸せのヒント」というようなタイトルのおしゃべりの会を周辺の方たちとしています。
まずは人生は限られているという実感からです。そして共生している男と女は社会的平等は当然だが、決して生物的には同じでない異性だということを意識して付き合う方が賢い生き方と思えてきました。

雄は力があり、最後まで色気があるので、セクハラと言われてもその正体を自らも良く理解出来ずにいる生物なのだとも思います。力があって踏んでいる側は、歴史的にも社会的にも、家庭的にも個人的にも、踏まれている側のパワハラの存在は実感出来ないのだと思います。身体感覚としても云われなくては理解出来ないのだと思います。知るは理解を、理解は愛を、と努力しても溝は存在し続けるのだと認識した方が幸せに生きられると思えるのですが如何でしょう。

対話の仕方も男性は問題解決指向です。雌はまずは、いのち・くらしといった足元からの共感や共生を対話に求めているので、そう簡単に溝を埋める事は不可能なのです。育児や家事・介護などを、日々の小さな場面でのやり取りから少しずつ気付き、溝が埋まり、幸せな共生の道が築かれてくるのだと思います。とはいえ私の過去、4人も子どもが居たので、せっせと稼いでくれる亭主は達者で留守がいいと、性別役割分業の日々でした。

高齢社会の幸せのヒントは、生物としての生かされているという身体感覚を研ぎ澄まして感じること、その事から相手を思いやることではないでしょうか。感謝して生きるとは、他力本願の弱さではないと思えてきました。 

ボケのお蔭で最後まで何とか寄り添えたのかもしれない・・・神様からの贈り物のボケがなければ、結婚57年まで続ける事は無理だったかもしれません。分かりきったことだと云われるかもしれませんが、無知の知を自覚して、幸せは自分で感じる、自己満足でいいのだと80歳になって強く思うようになりました。

残された人生の生きがい

そして今、この先の生きがいをこれまでの人生の延長線上に見つけました。到達したこれまでの生き方を、合わせて書かせて頂きます。

20数年前、1300人位の地元住民と清掃工場建設計画反対の裁判や公害調停の運動に深く関わり、ダイオキシン規制法成立迄、仲間たちと頑張りました。それを機に私は、世界に類を見ないダイオキシンを食したカネミ油症事件に遭遇した女性たちに会いました。その出会いがその後の人生に大きく影響したのです。

戦後の時代の変化 、流れも影響して高校生時代からの性別役割分業の男女の生き方が嫌で、男女平等・女性の地位の向上・女性の社会参加への関心を持って学んだり体験したりしましたが、家庭生活との両立は困難になり万年パート労働者として暮らしていました。この出会いは子ども達がみな成人した頃でしたが、同年齢の女性被害者たちの実態に、「母性」「いのち」と「自らの性」を意識する生き方に拘りはじめ、エコロジー・環境にさらに関心が深まりました。

後始末が困難で人体への悪影響が判明している有害化学物質*1にも拘わらず、現代人はそれらを日々開発し便利さを享受し続けているのです。それらを製造し、開発し、利用し、便利さを享受している責任を、現代人は共有せねばならないのです。廃棄物からの気付きでした。夢の化学物質製品として世界中が大きく期待したPCBはカネミ油症事件の影響もあって50年前猛毒な化学物質製品として開発は世界中で中止されましたが、日本はその後始末に今も莫大な税金が投入されています。

しかし、既にその毒物を直接人体に取り込んでしまった母性を備えた女性たちが、日本に居られるのです。
北九州中心の女性被害者にお会いしてすぐに、支援者として「女性被害者の実態調査」を行いました。そこには女性被害者たちの結婚・離婚・出産・家事・介護といった平凡な日々の生活の中に、男性には言えなかった社会の理不尽な扱い、悲しみ・悔しさ・憤りが溢れていました。同性としての共感から「油症事件は終わっていない」との運動に深く関わりました。

救済に向けた法律を2本成立させるまで世論を盛り上げる事もでき、今も心ある仲間たちと運動を続けています。しかし、未だに抜本的な治療法も救済策もないままの事件なのです。 

限られた生涯の中で彼女達は苦しみ、悲しみ、憤り、そして不安を抱えている、その体験は、今現在、子ども達や孫たち世代にも受け継がれているのです。
母性を備えた女性たちは、自らの生物としての宿命を、医学が進歩した現在でも背負はされているのです。さらに母親の私を悲しませたこと、みなに知ってもらいたいことは、出産の結果、自らの体内毒物は薄まるという「望むはずのない、害毒の先送り」という反倫理的帰結です。

その現実を賢明な先人は気付き、国連では女性の人権規約、性差別の撤廃条約、国内でも男女共同参画基本法の中に、「性と生殖の健康と権利、リプロダクティブ・ヘルス/ライト」という言葉が明記されています。にも拘わらず、日本の現在の男性中心社会では経済開発が優先され、ほぼすべての分野で女性の人権・母性に係る相互理解の対話が十分に行なわれていません。

地球環境汚染は子宮内汚染*2

事件から50年が経過しましたが、生殖の健康と権利が理不尽に侵害されてしまった女性たちの現実、産むことを諦めた方々の老後、産んだ子供たち孫たちの健康への不安と責任等々を背負って生きて居られる女性達に接し、私は涙と憤りを同性の支援者の一人として痛切に感じ、これを他人事として、このままこの世を去る事が出来なくなっています。

次世代の方々と一緒に運動を続けてはいますが、支援者として、故矢野トヨコさんが残された「成せば成る、成さねば成らぬ何事も」の言葉に突き動かされ、「権利は訴えて勝ち取るのだ」と動いてきました。以前、東京弁護士から頂いた「人権賞」のトロフィに込められた信念に勇気づけられ、80歳を迎えた今、残りの人生を、国・KKカネカ・カネミ倉庫に今一度、人として組織としての謝罪と賠償を求める訴訟への参加を呼びかける事を決心しました。

大気・土壌・食物の汚染は次世代ら影響するとの気付きによって、生き方を、特に男性社会の経済競争の考え方を転換しなければ持続可能なすべての「いのち」は先が短いとさえ感じているのです。既に各地で環境問題に敏感な女たちが中心になって運動が起きています。各地で頑張って運動しています。女はお喋りが得意です。女性の出番の時代が来たと実感しています。この先、ぜひぜひ女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライトを母性の人権・責任としての考えを広げていってほしいのです。

50年前のカネミ油症事件は、この事実を証明しています。人類はカネミ油症事件の被害者女性に学ばせて頂き、経済発展や競争より、次世代の子ども達の権利、いのちの健康を受け渡す親の権利、責任があるのです。

権利はもともと有るのではなく勝ち取るのだと自覚し行動したいと願って、最近、生命保険も遺言も健康診断も85才までは生きたいと手をうち、活動を継続しています

*1
有害化学物質が胎盤、母乳で次世代に移行している事は明白です。息子たちの精子数の減少、癌の多発、子ども達の免疫力の低下や虚弱体質、アトピー症状の増加、自閉症、学習障害、多動行動、性認識の変化、化学物資過敏症etc。

*2:
・地球環境汚染は子宮内環境汚染につながっている。
・母性を備えた女性の生殖の健康と権利は女性の基本的人権である。
・子宮内環境の汚染は、次世代の「いのち」の健康に影響する事は明白である。