徳永 洋子(とくなが ようこ)

ファンドレイジング・ラボ 代表

徳永 洋子
  • ファンドレイジング・ラボ 代表
    日本ファンドレイジング協会 理事
  • 三菱商事、日本フィランソロピー協会、シーズ・市民活動を支える制度をつくる会の勤務を経て、2009年4月、日本ファンドレイジング協会に入職。
  • 2012年6月より2014年末まで同協会事務局長をつとめた。2015年2月に「ファンドレイジング・ラボ」を立ち上げ、非営利団体のファンドレイジング(資金調達)力向上と寄付文化の醸成を目指して、講演、コンサルティング、執筆などを行っている。
  • 著書「非営利団体の資金調達ハンドブック」(時事通信社)

ファンドレイジングとは

日本の社会は、たくさんの課題をかかえています。少子高齢化、過疎化、経済格差、震災からの復興…。そして、多くの人が、これらの課題を行政だけで解決していくのは無理だと感じています。  そこで、公益法人、NPO法人や社会福祉法人など、民間の非営利団体が果たす役割に期待が寄せられています。

しかしながら、社会の課題解決に取り組む団体の財政基盤が脆弱では、その活動の持続可能性が危ぶまれます。そこで求められるのが「ファンドレイジング(fundraising)」。直訳すると「資金調達」です。 「ファンドレイジング」とは、民間の非営利団体が寄付、会費、助成金、事業収入などの資金を調達することを意味します。

非営利団体にとって、組織全体で計画的にファンドレイジングに取組んでいくことが、社会の課題を解決する活動の継続に欠かせません。それを担うのが「ファンドレイザー」です。

日本ファンドレイジング協会について

戦略的にファンドレイジングを行って成果を上げるには、ファンドレイジングの知識とノウハウを理解したうえで、計画を立てて実行することが望まれます。そのための情報と知見の共有のプラットフォームとして、2009年に全国580人の賛同人とともに、「日本ファンドレイジング協会」が設立されました。  私は前職の「シーズ・市民活動を支える制度をつくる会」で、この協会の設立事務局を担当しており、設立と同時に転籍しました。

日本ファンドレイジング協会は、ファンドレイザーの育成と寄付市場の拡大を事業の2本柱としています。ファンドレイザーの育成のためには、「認定ファンドレイザー資格制度」を運営し、年1回の「ファンドレイジング・日本」には1700人を超える人が参加します。寄付市場の拡大のためには、子どもたちに寄付を体験してもらう「寄付の教室」、遺贈寄付推進会議、寄付白書の発行などを行っています。ぜひ、Webサイトをご覧ください。http://jfra.jp/

ファンドレイジング・ラボについて

私は日本ファンドレイジング協会の事務局長職を経た後、現在は理事を務めつつ、「ファンドレイジング・ラボ」 http://fundraising-lab.jp/を運営しています。

このウェブサイトでは、ファンドレイジングの基本を解説する、「3分間ファンドレイジング講座」を連載しています。現在の主な仕事は各地での研修講師です。これまで全国各地で約2万人の方々にファンドレイジングについての研修をいたしました。

また、2017年3月には、「非営利団体の資金調達ハンドブック」を時事通信社から出しました。
おかげさまで、現在第4刷です。 この本は、amazon でもご購入いただけます。https://www.amazon.co.jp/dp/4788715104/

専業主婦時代の私

実は、私がNPOで仕事を始めたのは子育てが一段落した40歳すぎからでした。総合商社を、当時言われていた「寿退社」してから、15年以上の専業主婦生活を送っていました。
当時、男女共同参画社会基本法(1999年施行)に向けた動きもあり、専業主婦の私は焦燥感を抱きつつ、諸先輩が女性の社会進出を切り拓かれてきたことを眩しく眺めていました。

その一方で、専業主婦時代の私は、PTA活動、母校同窓生のボランティアグループなどに参加することで、「社会とのつながり」を常に感じながら過ごしていました。
当時の私に現在の私は想像もできませんでしたが、それでも、社会に耳を澄ませ、周囲の方達と接する中で、「いつか、何か自分にも、新しい挑戦の機会があるだろう」という確信はありました。

そして、ボランティア活動を通じて知った、日本フィランソロピー協会で働く機会を得て、その後の職業人生(兼業主婦生活)が始まります。

私が大事にしていること

私が仕事と向き合う際には、次の3点を大事にしています。

1. 耳を澄ます

家族や友人、同僚といった周囲の人たちだけでなく、テレビやネットで発信している人たちの声にも耳を澄ますこと、これが「社会の中の自分」を位置付け、時には自分の仕事の羅針盤になると感じています。
また、専業主婦で育児に専念していた時も、私は持ち前の野次馬根性からかもしれませんが、そういう声を聞きながら自分が社会とつながっていることを感じていました。

2. 買いかぶられたらやってみる

私自身、新しい仕事の機会があっても、「私には無理かも・・」と考えがちですが、時には厚かましくも、「買いかぶられたのだから、やるだけやってみよう!」と挑戦することをモットーにしています。キャリアの空白期間が長かっただけに、小さなチャンスを無駄にできないというのも本音です。

3. 本気になりすぎない

長年、社会の課題の解決に取り組む方々と接する中で、自分の気持ちにも、他人の気持ちにも本気になりすぎないことの必要性を感じることが多々ありました。「自分がやらなければ!」、「あの人の気持ちを考えたら何としてでも!」、といった気持ちは尊ぶべき事です。  それでも、長い人生では、やらなくてはならないことは山ほどあります。時には、「もっと!」の少し手前で心身両方に余力を残すことが大切だと思っています。

最後に

ファンドレイジングは、単に活動資金を調達するということにとどまりません。
資金を募る過程で、多くの人たちに社会の課題について伝え、その解決の重要性を理解してもらい、その結果、それぞれの人の考え方や行動に小さな変化が生まれたとしたら、それだけでも課題解決が一歩前進すると考えられます。

たとえば、盲導犬の育成団体が寄付集めを行っているとします。
ファンドレイザーは、組織の皆と協力しながら、ホームページやチラシやイベントなどで、盲導犬の役割、それによって視覚障がい者の生活がどう改善されるのか、そして盲導犬を育成するためにどのような活動を行っているのかなどを伝え、活動への支援を募ります。
その結果、その団体に寄付をする人がでてくるでしょう。でも、すぐに寄付をしなくても、視覚障がい者の生活や盲導犬について知った人たちが、盲導犬が電車や店舗に入ってきた際に気持ちよく受け入れる、あるいは白杖で歩く人の道をふさがない、  点字ブロックの上に駐輪しないといった、小さな行動の変化を起こしたら・・・まさに、ファンドレイジングが社会を変えたことになります。

社会を変えるファンドレイザーの方々とのお仕事、これからも続けていけたら幸いです。