阿真 京子(あま きょうこ)

子どもと医療 主宰

阿真京子 氏

都内短期大学・日本語教師養成学校を卒業後、国内及びマレーシアにて日本語教師を務める。帰国後、日本外交協会にて国際交流・協力活動に従事。その後、夫と飲食店を経営。
2007年4月保護者が子どもの医療のかかり方を知ることで、不安を減らし医療者の負担を軽くすることを目的に、一般社団法人知ろう小児医療守ろう子ども達の会を設立。同会解散。2021年8月より「子どもと医療」として活動を展開中。『病院に行く前に知っておきたいこと』著者。

その他の役職
・特定非営利活動法人日本医療政策機構 フェロー
・一般社団法人日本医療受診支援研究機構 理事
・AMR アライアンス・ジャパン メンバー
・東京立正短期大学 非常勤講師(「医療と子育て」)
・ハレのこどもクリニック 子育て相談専門員
・地域活動「和つなぎプロジェクト」子育て相談専門員・コーディネーター


2022年夏、神奈川県と京都府で、府県をあげて「子どもの医療のかかり方」に取り組む見込みとなった。ここまで来るのに16年、かかった。

「医療のかかり方」とは、どういうときに受診が必要か、ということである。これをあまり知らずに皆、判断をしている。いまが必要なときだ、とかこれは大丈夫そう、といった判断をして受診をしているのだ。このような何気なくしている判断に、どこを見たらよいのか、という医師からの情報が加わることで、医療が必要なときと不要なときがわかる。必要なときは迷わずに医療にかかることが必要だ。医療が必要なときを知る、ということ、それが医療にかかるうえでとても大切なことである。
医療のかかり方には、どのように医療や病気と向き合っていくのか……。そういった、誰にでも必要な「医療との付き合い方」という内容も含まれている。

初めての子どもの初めての痙攣

今では18歳になる長男が0歳9か月のときだから18年も前のことにさかのぼる。
真夜中に痙攣を起こした。第一子の子育て、「けいれん」については、言葉を知っているくらいでもちろんその姿を見るのは初めてのこと。
家から消防署はとても近かった。あっという間に救急車が到着し、救急隊員が近隣の病院へ電話をかけて搬送を断られていた。痙攣を始めて15分以上が経過したころ、救急隊員の態度がとても切迫したものになり、搬送先が決まった。
真夜中の搬送先の大学病院は、子ども達とその保護者で溢れかえっていた。冷えピタをして走り回るお子さんもいた。息子はそのような中を潜り抜けて真っ先に診ていただけた。息子の心拍は30まで低下し、医師は「まずい、まずい」とおっしゃり、その言葉に夫婦で目を合わせ、ようやくただの熱性けいれんではないことを知る私たち夫婦であった。
45分以上が経過したところで、痙攣は止まり、隣の部屋に通された。
意識は戻っていなかった。「意識は戻りますか」と尋ねても、医師の表情は暗く、「それはお答えできません」「では、入院はどのくらいになりますか」と尋ねても「今の段階ではお答えできません」と言われるばかりだった。
翌朝(ほんの数時間後)、体中に発疹が出たことで、突発性発疹による痙攣だということがわかり、わずか数日で退院、後遺症もなく今も元気に過ごしている。

ひっ迫している小児医療だが「小児は入院の必要がない患者が9割以上である」

わが子が回復した後も、あのとき見た待合室の様子がずっと気になっていた。日本の小児医療現場で何が起きているのだろうか……。本や新聞、インターネットで調べ始めた。日本の小児医療の現場がひっ迫していることを知った。何か私たちにできることはないのか、と考えた。
あのとき助けてもらった、いま後遺症もなく元気に過ごしているのは、消防署まで3分、大学病院まで10分もかからない場所に住んでいたからもあるのではないか……? 同じ症状でも、住む地域や病院の体制などの問題で、悲しいことが起きているのではないか……?

厚生労働省の検討会の報告書には「小児は入院の必要がない患者が9割以上である」とあった。ここまで調べてきた中で少しずつわかってきたことではあったが、このとき、「9割以上」という数字に驚き、そして「これは、私たち親が子どもの医療について少しでも知ることで現状を変えることができるのではないか」。そう思い立ち、「知ろう小児医療守ろう子ども達の会」という団体を発足させた。

機会がないから自らつくる

子どもの医療について知る機会がないかとあちこち探したがほとんどなかった。最初に行なったことは、東京都と厚生労働省へ向かうことだった。子どもの医療のかかり方を知る機会が保護者に必要だと訴えた。しかし当然のことながら、門前払い。「お母さん、頑張ってね」という言葉とともに帰ってきた。

自らその場を作る必要性があるということに気付いた。実績作りだ。そこからは会員さんたちと協力をして、小児科の医師を探して、そして小児科医による「子どもの病気とその対処法」という講座を13年間、160回6000人以上に伝える活動をしてきた。

「子どもの病気とその対処法」講座
「子どもの病気とその対処法」講座の様子

全国の、生まれたばかりの子どもを育てる保護者に、子どもの病気とその対処について伝えた。これは特別な人だけが知ればいい話ではない。誰にでも必要な「医療のかかり方」という知識。一生ものの宝だ。
子どもの流行している病気や医師との付き合い方医療との向き合い方など、毎月、医療従事者から原稿をもらい、メールマガジンを発行した。全国に100名、コアメンバーだと20名近く、本当にたくさんの会員さんが協力してくれた。

会員と共に祝った
会員と共に祝った

当初、門前払いをされた厚生労働省や東京都からも小児医療や救急医療の検討会の委員として、声がかかるようになった。保護者に伝えるだけではだめで、搬送や制度の問題で悲しいことが起きてほしくないと思い、毎回、患者側、保護者側、市民側からはたいていその委員会に1名ということもあり、真剣に議論に参加してきたつもりだ。思うようにいかないことばかりではあったけれど……。

そのような中で、2018年、厚生労働省の「上手な医療のかかり方を広める懇談会」が始まった。私たちが行なってきた活動を見本にこれからは国がやります、とそういうお話であった。これには会員一同、とても喜び、安堵した。「医療のかかり方」とはすべてのひとに必要なことだと思ってきた私たちは、このような展開をずっと待っていた。国は自治体に対しこれを呼びかけ、自治体が実施していくという流れになった。
この会議では、一度決まった意見がひっくり返るなどしながら、十分に検討を重ねた。
2020年1~2月、「上手な医療のかかり方」の母子保健事業のモデル事業の実施が決まった。新宿区牛込保健センターの離乳食講習会、横浜市産婦人科の母親学級、愛知県岡崎市の乳幼児健診という3つの市区で、段取りをそれぞれの場にふさわしい内容に少しずつ変えるなどしながら、3つのパターンにすることで、自治体が取り入れやすいようにモデル事業を実施した。厚生労働省の通知も大方出来上がり、2月末には発出予定。あとは全国で実施されることを待つばかりとなった。その後、自治体にバトンを託す形で、2020年に団体を畳んだ。

上手な医療のかかり方.jp

ガイドブックやサイトでも情報発信

ところがご存じの通り、この2020年2月に、新型コロナウイルス感染症の猛威が世界中を襲った。自治体の啓発事業はすべてストップし、自治体の保健担当はそれどころではない状況となった。もちろん、仕方ないと思った。コロナ対応で自治体は本当にそれどころではなかったからだ。しかし翌年も、動きは止まったままだった。世の中が受診の抑制に傾いてはいけないという判断だった。

私たちの活動は、受診抑制ではない。そして適正受診を推進しよう、というものでもまたない。
それは結果的に起きることであって、適正な受診をしようと旗を振ることではない。医療が必要なときを知る、というものだ。必要なときを知ると、必要ではないときがわかり、心配が減る。心配が減ると受診が減る場合も、逆に受診の必要性がわかり増える場合もある。それは結果の話だ。

団体を畳んだが、母子保健事業における啓発事業は、閉ざされてしまった。コロナ禍で普段より「医療のかかり方」は必要な時期だというのに、動きは止まったままだった。そこで2021年、クラウドファンディングを実施。「病院に行く前に知っておきたいこと」や「子どもの健康管理ガイドブック」について本や冊子にまとめ(https://kodomotoiryo.com/about/#book)、子どもと医療のサイト(https://kodomotoiryo.com/)も作り、また、子どもが病気のときに親が知っておきたいことを一枚のパンフレットにまとめた。これは「子どもと医療」のサイト(https://kodomotoiryo.com/concept/)より7か国語版でダウンロードが可能だ。
そして、保護者への啓発活動を続けながら、自治体へ呼びかけを行ってきた。

『病院に行く前に知っておきたいこと』表紙
『病院に行く前に知っておきたいこと』表紙
保護者への啓発パンフレット
保護者への啓発パンフレット

話は、冒頭に戻る。
全国どこで生まれても、どこで子育てしても「医療のかかり方を知ることができるように」、と願い、いったんは叶ったかに思われた道の扉はまだ閉じたままだが、ついに今年、京都府では母子手帳に入ることが決まる見込みで、神奈川県では両親(母親)学級・乳幼児健診などの母子保健事業で「医療のかかり方」を知る取り組みが始まる見込みである。

保護者に伝えることで、その子ども達に伝わっていく。子ども達が大人になったときには、いつかすべての人が「医療のかかり方」を当たり前に身に着けていく世の中になっているように(とても長い時間のかかる話だ)、知ることの大切さを広めていきたいと思っている。